スポーツ医・科学
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スポーツ医科学レポート (第2回 対談内容)


 岐阜県体育協会スポーツ医科学委員会では『スポーツ医科学レポート』を発行し、医学的な話題(整形外科・内科)をはじめ、トレーニング論、運動生理・栄養学、体育学・心理学の観点に立って、競技団体のみなさまや県民のみなさまに対し、スポーツと医科学との連携を啓発・推進しております。
 今年度当協会では『ぎふ清流国体』に向け、スポーツ医科学をもっと身近に感じてもらおうと、ホームページ上に定期的にレポートを掲載しています。
 その第2回目として、中央大学学友会体育連盟ボクシング部監督でいらっしゃる糸川保二郎氏を訪ね、「ボクシング競技の安全管理について」、「選手を強化するために」、「ドーピング検査について」などのお話を伺いました。

今回の対談にご参会頂いた方々
アドバイザー
 中央大学学友会体育連盟ボクシング部監督       糸川 保二郎 氏

聞きて
 日本体育協会公認スポーツドクター医学博士       舩橋 建司 氏
 岐阜県体育協会スポーツ医科学委員            西本 裕 氏
 岐阜県体育協会競技スポーツ担当             高木 永悟

編集
 岐阜県体育協会                       岸田 梨加

スポーツ医科学レポート (2011年11月19日 多治見糸川ジム)

(左から船橋、糸川、西本 各氏 )
■ スポーツドクターについて
高木
スポーツドクターを派遣するにあたって、たいへんなご苦労をされたことと察しますが…。
糸川
ボクシングという競技は、医師がリングサイドに常駐していないと試合ができないことになっています。その中で今の若い人は全然分からないかもしれないが、僕が20代の頃は医師を探すことが大変でした。そうした状態が何十年も続いていた時、渡辺郁雄先生(現岐阜県体育協会スポーツ医科学委員長)がスポーツドクターでいらっしゃるという話を聞きつけ、しょっちゅう本巣までお話を伺いに行きました。そこでスポーツドクター協議会というものを知り、今では書類を出しさえすればスポーツドクターを派遣してもらえるようになりました。
西本
それは何年くらい前になるのですか?
舩橋
20年くらいになりますか…1992年頃ですかね。ちょうど私が多治見にいたときに依頼がきたわけです。
西本
前回インタビューをさせていただいたホッケー競技の場合は、安田善治郎監督が近くにおられた喜久生ドクターを頼りお願いしていくうちに関係が構築されていきました。舩橋先生とはドクター協議会を通じて関係ができたというわけですね。
糸川
それもありますが、やはり一番はいつも近くにいてくださったということ。一つの例としてですが、うちのバレーボール選手が試合近くのある日、「指の骨にひびが入った、ひょっとしたら折れているかもしれない」と学校で相談してきたのです。普通の立場の医師なら、きっと試合を諦めなさいと言うところでしょうが、舩橋先生はスポーツドクターであるということから信頼して、競技を続けながらもちゃんとした治療法を確立されているからとアドバイスしたのです。

■ボクシング競技の安全管理について
糸川
アマチュアボクシングは安全を第一に競技をします。審判だけではなく、指導者であるコーチ、さらに観客も常に選手を見ています。競技ですので、安全が保障されなければいけないのです。

(船橋氏)
舩橋
アマチュアボクシングは、テクニックを競うものであり、相手を倒すことを目的とはしていません。それが分かってくると、案外安心して見ていられます。レフリーは危ないという前に必ず止めますから、安全性については大丈夫だと思います。
西本
私も時々リングドクターを依頼されて行くのですが、慣れないこともあり、判断に迷うことが多々あります。舩橋先生の場合は、どれくらいの時間を要しましたか。

舩橋
たくさんの試合を経験し、1~2年で慣れました。結局我々が判断を下すのは、レフリーがどうしても困って相談をしてくる時ですから、レフリーが判断に迷うのであればやめるように助言しています。
西本
『ぎふ清流国体』に向け『おいでませ山口国体』の視察に行きましたが、当然リングドクターは必ずつけなければいけないということで、ドクターによる判断が求められる場合、どうしても脳外科的な判断を要求されるのではないでしょうか。そうなると、脳外科以外の医師はどうしても及び腰になると思いますが、その辺りはどうなのでしょう?
舩橋
リングサイドにいて脳外科的な処置や判断の必要は特にありません。僕も必要かなと思って構えていましたが、脳外科的な判断というよりごく普通の医学的知識があれば大丈夫です。専門的な検査などはできませんので、あとは病院に搬送するしかありませんから。
糸川
練習ではリングドクターがいませんから、僕らも判断する力がいるので、安全に競技させるための知識を身につけます。これが試合になると展開次第によっては、僕らでは判断ができない場合も起こりうるので、そうした時にはドクターに判断を委ねます。しかしそうしたことは何千回の試合に1回あるかないかで、全国大会に限らず突発的に起こります。選手はたくさんの練習を積んで試合に臨みますから、そのようなアクシデントは滅多には起こらないのです。また、全国大会のレベルでやれる選手・やれない選手のすみ分けをし、やれない選手を外そうという傾向があり、レベルに差があるのにあえて戦わせる必要があるのだろうかという判断も事故を防ぐ一つの手段となっています。


(西本氏)
西本
競技力を向上させるためには底辺を拡大していくことが大事ですよね。しかし、競技を始めるのに、生徒はもとより保護者にも安全なスポーツであることを示していく必要があると思いますが、その辺りについてほどうお考えでしょうか。






糸川
僕が学校に勤務していた時は、必ず保護者会を開きその生徒がアマチュアボクシングに入部するに当たり、指導者としてこの子をどう育てていくのかをプロセスを説明していました。技術が伴わない生徒と技術のある生徒とをいきなり戦わせることはしません。選手には経験年数をはじめ体力や技術力などを加味してランク分けをし、ランクに合わせて指導をしていきます。配慮をしなければ大けがにつながりますし、預かっている以上は生徒を守ることも大切ですから。
西本
保護者にそうした配慮や、先生の熱意が伝われば多くの選手が競技を始められそうですし、保護者からの信頼も得られますね。新しく高校に入学した生徒にボクシング部を始めてもらうにはそういう配慮は必要ですね。

■選手を強化するために
糸川
高校から競技を始める選手がトップを目指すとなると厳しいものがあります。ジュニアからやらないと。他競技のトップアスリートはジュニアから始めていますから。僕が高校を退職したのも、そういった周りから多くの要望や依頼があったから。僕はそんな選手を育てたい。ジムを開けばいつかはオリンピックへ行く選手が出てくるのではないかと思っていました。10年後を目標にしています。

西本
それが少しずつ花開いて、国体でも優勝者がでていますね。
糸川
今は子どもたちが20名近く来ています。もともと男の子は格闘技が好きですよね。それを生かしてあげるためにはどうすればいいのかを考えてやっています。ここでは玄関先で必ず「お願いします」と大きな声で挨拶をしない子にはやり直しさせます。しっかりと靴を揃えて中に入ること、送り迎えをしてくれた親には必ず「ありがとう」とお礼を言うことなど口うるさく言い聞かせています。ボクシングをやるベースがここにあると思います。そしてボクシングでうんと遊ばせて、その中で課題を与えてあげる。子どもは自分の力で頑張るようになります。子どもが本格的に頑張るようになったら、親も子の頑張りに触発され、いつの間にか親も見よう見まねで指導できるようになります。
西本
選手の素質でだけでなく、先生・保護者の指導が全国1位になっていくプロセスは必要なのですね。

■ドーピング検査について

(糸川氏)
西本
現在、国体やインターハイでドーピング検査をやっている選手はいますか。
糸川
3位までのトップクラスだけですね。ドーピング検査があることは前もって言ってありますよ。
西本
その場合は、ある程度こういう選手と協会が決められているのですか。
糸川
基本的にトップクラスの選手だけで、全体ではおこないません。また、ドーピングの体制がドクターの中で整っていない場合もおこなわないです。
西本
風邪薬などでうっかりドーピングということもあるので大変ですね。そのようなことを防止するためにも選手にしっかりと説明する必要がありますね。
糸川
そうですね、ですのでボクシングは検診があるのです。内科の先生は大変ですよ。
西本
内科の先生の中でもドーピングに該当する薬を使い分けることができる先生ならいいですけど、町の薬局だと難しいですよね。スポーツファーマシストというドーピングに防止に関わる資格を持っている先生がいる病院もありますよね。
舩橋
はい、しかし国内大会ではそこまで考えている選手は少ないですね。ですので、普段から指導者も選手もドーピングのことについてわかるというシステムをつくらなければいけないです。
糸川
そうですね、ドクターと薬剤師でドーピングの研究組織をつくって欲しい。
高木
薬剤医師会には国体の際に協力していただいて、選手達にチラシを配布しました。そしてドーピングについて悩まれることがあれば、直接薬剤医師会や体育協会が窓口になって対応するのでお問い合わせくださいと伝えています。段々と競技団体や選手に浸透してきています。

■県内のトップクラス選手の把握
糸川
岐阜県内にトップクラスの選手が何人いるか把握することも良いことだと思います。
西本
その件はSSTC が頑張っていますね。SSTC では競技力や身体能力の体力測定などおこなっています。今年も聞いたところによると15名を年2回測定しているので、合計30名ほど測定をして、どれくらい伸びたかなどが測れるようになっています。

■ビジョントレーニング
西本
ビジョントレーニングってなんですか?テレビでなにか映像を見るのですか?
糸川
いや、そういうのではなく、○×を付けたり目の焦点を集中させるとどのように見えるかなどを調べるトレーニングです。
西本
そういうのはパンフレットか何かがあるのですか?
糸川
あるんですよ。以前4人程参加して、そこで子供達にもやってみようかと話が出たのですが、まさかここでビジョントレーニングの話になると思っていなくて持ってきませんでした…。
西本
ビジョントレーニングは筋力や脚力といった意味とは違うのですよね?
糸川
ビジョントレーニングはモチベーションを上げる為の一つの方法だと思います。
西本
それが結果的にボクシングや他のスポーツのパフォーマンスにつながるのですね?
糸川
プロボクシングの飯田覚士選手やその教え子など大勢の選手がいます。
西本
彼らがビジョンコントロールを推進しているのですね?

糸川
飯田覚士選手が推進しているので、その教え子たちも参加していますね。僕も色々研究しました。実際に攻撃しながら、足し算・引き算・かけ算を一瞬の判断で解かせる。間違えると「はい、終わりー」と言ってやると、子供達は間違えないように努力するんですよ。
西本
頭も使うんですね。
糸川
瞬間に判断するトレーニングです。能力のある子なら答えることができます。出すほうも答えられる問題じゃないとだめですよ、割り算はダメです(笑)それが僕のビジョントレーニングです。競技によって必要なビジョントレーニングがあるはずです。あとは、動体視力も大切ですよ。
西本
パンチが強くても避けられないと意味ないですからね。
糸川
それも面白半分に遊び心を取り入れて指導する。パンチが当たったら「お前当たったから終わりー、はい次―」って感じにね。



国体で強くなるためには、遠征、試合など経験を積むことが必要です。指導者・親・子供全員が熱心であれば同じ目標ができます。皆で共有できる目標を持つことが大事なのです。
また、若い指導者がどんどんこないと続きません。しかし、なかなか全国へ勧誘しに行く暇はないのが現状です。
まだまだは話したいことはたくさんありますが…本日はこの辺りで。
お忙しいところありがとうございました。